第九展望塔

みんなで叶える物語

[二次創作・感想] 「僕らのラブライブ!16&僕らのラブライブ!サンシャイン!!SP04」

 

5月28日(日)、東京ビッグサイトにて「ラブライブ!」オンリーの同人誌即売会「僕らのラブライブ!16&僕らのラブライブ!サンシャイン!!SP04」が開催されました。
第10回以降、暫く大田区産業プラザPiOで開催されていましたが、今回は「ぷにケットスペシャル2017」との合同開催もあってか、より大きな会場に。体感としては、いつもよりひとも多かったです。入場規制もかかって、人気サークルは屋外まで列が流れていました。

手に入れた同人誌およびグッズのうち、新作の感想をまとめておきます。

 

 

 

【「僕らのラブライブ!16&僕らのラブライブ!サンシャイン!!SP04」新刊】*1

 

うええり・ちちち』(paper&pencil)

「えりち」の三文字からなる言葉遊びで描かれた絵本。紙材からして選り抜いている造本のこだわりは随一で、製本術を学んでいるひとの仕事としか思えない(なにしろ自ら製本しているのだから!)。最後に、すこしにやっとさせる落とし方も良い。蒐集したくなる以上に、誰かに贈りたくなる一冊です。

 

おぎくもりのちねこ時々、あめ。』(SHAMROCK)

星空凛西木野真姫の関係に焦点をあてた三部作の掉尾を飾る、作者にとっても集大成的作品*2。「女の子らしくなれない」という凛の悩みと、恋人になったふたりの関係を呼応させるアプローチは、ありそうであまりなかったもので面白い。更に、何気ない一言から関係が変転する中盤など展開にも工夫が凝らしてあって、質量ともにりんまきの到達点と呼べる作品。ふたりが好きなひとは絶対に読んでほしい*3

 

ムヮルゥィーのスクゥーアイ道一直線』(ザ借家)
「よいこブックスシリーズ」だ、やったー!! スクゥーアイ道を極めるべく小原鞠莉がしょうもないことを画策、松浦果南が振り回され、黒澤ダイヤがクールに対応する三年生三人組。冒頭シリアスかと思いきや、まさかのギャグ一点張り。作者の「のぞえりちゃん」連作と同様、本作ではデフォルメされた鞠莉がはしゃぐはしゃぐ。暴走気味の鞠莉は、のぞえりちゃんとはまた違う魅力があって良い。ギャグを主体としたこれまでの作品とくらべてもシュールなネタが多く、畳み掛けるようにギャグを飛ばして脱線させていく感じは好みでした。

 

かるはtake me out.』(prism*pink)
にこと真姫の恋愛を数多く描いている作者の、はじめての「ラブライブ!サンシャイン」作品、そのプロローグにあたる小冊子。果南と鞠莉、浦の星女学院を卒業したふたりが伊勢を旅行する。本作では、伊勢神宮に参拝して、伊勢うどんを食べる。ゆるい感じの旅で読み心地が好かったので、続きが楽しみ。

 

君野朋成英雄幻想』(きみの友達。)
津島善子国木田花丸が付き合っている設定で描かれた表題作ならびに「サムデイインザレイン」を収める掌編集。幼馴染みのせいか本編でも善子にだけは厳しい花丸、その関係の活かし方が巧い。よしまるを描いた数ある作品のなかでも一線を画している。

 

9℃すきだから✕めない』(low*temp)
……真姫が一途なまでに凛へ(何度も)告白する。凛のマイペースさに振り回される真姫の側から描いていて、少女漫画のヒロインもかくやと言わんばかりの真姫の恥ずかしがりようが愛らしい。小泉花陽矢澤にこの話『こいなんて✕らない』の姉妹編。

 

倉蜂るか#よしまる園児本 -WEB掲載まとめ-』(はちみつかけごはん)
twitterで発表された幼稚園児の頃の善子と花丸を描いた漫画を集めた一冊。いくらでもおかわりできるかわいさ。幼稚園児設定の作品のなかでは、いちばん好きかも。

 

相模わらいばなしをふたつ』(あいあい)

ずっと気になっていた作家その1。花に秘められた、東條希絢瀬絵里のきもちを描く。表紙からして只事ではない雰囲気だが*4、内容はそれどころの素晴らしさではなかった。ふわっとした優しいタッチから想像していた以上に、感情の掬いかたに、はっとさせられるものがある。また、心象風景とモノローグの挿し込み方が独特。読み違いでなければ、前半と後半で、ふたりがμ'sにはいる前後、半年以上は時間が経過している筈*5で、それに技巧的なくさみがしない。これは自然にしているとしか思えない。恐ろしい。

 

サンクス仮面にこぱな Longing or Love』(八王子GALAXY VENUS)

花陽がにこの家におじゃまする話。にこに好意を抱きながらも若干空回り気味の花陽は「こっちの花陽ちんも好きにゃ」(©️星空凛)という感じで、見ていて微笑ましい。しかし、突然挿入されるあのポエムがないとすこし物足りなく感じてしまうのは、こちらがおかしくなってしまったのだろうか。

 

しんごー蔵出し!凛ちゃん漫画』(よんごーあんぐる)

未発表作品「#自主トレ」と「#翼をくらはい feat.凛ちゃん」を収めた小冊子。一編目は、他愛ない発想をネタにして、その違和感でするっと落とす、作者の得意とするスタイルで描かれた掌編。“翼をください”のメロディに“僕たちはひとつの光”の歌詞「時をまきもどしてみるかい?」をリフレインさせる二編目は、よくわからないが妙に癖になる。

 

だたろうそれゆけ かなんちゃん』(だだだ珈琲)

実家のダイビングショップの客入りが悪くて、おこづかいがもらえなくなった果南。彼女のためにAqoursのメンバーがお客さんの増えるアイディアを出し合う。往年のコロコロコミック(あるいは『アンパンマン』)の香りがする表紙だが、なかは作者の普段のタッチで描かれた4コマ漫画。「あとがき」にははじめての4コマ漫画と書いてあるが手慣れている。何より、果南の脇に抱えられる黒澤ルビィがかわいい。

 

Chigayacherish』(chou*chou)
ずっと気になっていた作家その2。新しい衣装の撮影に自信がもてない花陽に、にこが魔法をかける。「ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル」ホワイトデー編の衣装から想像を膨らませて、ひとつの物語を仕立て上げている。天使をイメージした衣装と相俟って、読んでいるあいだ多幸感がありました。

 

つな春に住む』(大地の恵み)

会場で見付けて気になった本その1。社会人になって一緒に暮らし始めた希と絵里が、ふたりで夜のお花見をする。やわらかいイラストとゆるやかなふたりの関係が合っていて好みの作風でした。希が図書館司書をしているという設定は個人的なつぼにめちゃくちゃハマったので、その話も読んでみたい。

 

ふくたろうCHIKA先生のすくーるあいどる♡れっすん』(スーパー銭湯
会場で見付けて気になった本その2*6。スーツを身に纏う高海千歌から、渡辺曜が手取り足取りスクールアイドルについてのレッスンを受ける。基本いちゃいちゃしているが、最後で一気に甘酸っぱく。曜と同じように、千歌に恋してしまいそうな輝きがある。今まで読んだことがなかったので、これはまずいと思ってあわてて既刊も買って読んだ。『おしえてようちゃん』に悶絶して『ふたつぼし』に絶叫した。

 

ぺそーふじやまコレクション!』(ふじやまマンモス)

なんだろう、この懐かしい感じ。60年代〜70年代の週刊誌に載っていた1頁漫画に似ているのだと、本のかたちで手に取って思い至った。頁のコマ割りを無視した自在な描き方は、いまの方が却って新鮮に映るかもしれない。なんとなく何度もぱらぱら見返したくなる一冊。

 

もけアベコベランデヴー?』(gaton.)

恋人同士の南ことり園田海未が、ふたりで海に行く。はじめてのデートに期待を膨らませ、かわいい水着を選ぶことり。甘い展開を読者にも期待させておいてから、ことりと海未それぞれの勘違いでラブコメに転調していくあたり、楽しくて仕方なかった。ころころ表情の変わることりが、もう本当にかわいい。もけの作品は好きなものが多いが、本作は読んでいる間いちばん楽しかった作品かもしれない。

 

Tideland』(N/R/F)
希とにこがコインランドリーで交わす会話を描いた掌編を収める小冊子。コインランドリーという日常の一場面から、ここではないどこか(モン・サン・ミシェル)を夢想する。素朴な話だけど、対置させる場所の選び方が良い*7。ちょっと癖のあるフォントを使い分けているが、作者のこだわりだろうか。

 

やちむせんべつ②』(あげだし豆腐)

表紙に「らくがき本」とあるように、凛と真姫にまつわるアイディアノートにちかい小冊子。大正ロマンナースのお仕事、大学生になったふたりが付き合っている設定などなど、断片を見て想像を膨らませる楽しさがある。大正ロマンパロディは個人的にとても読みたい*8

 

特製『えり・ちちち』シール(うえ/paper&pencil)

『えり・ちちち』のイラストを型どったフレークシール。フレークシールってもったいなくて、なかなか使えないですよね。

 

マスキングテープおふとん/メランコフランコ

μ'sとAqours、それぞれ9人のイラストが描かれたマスキングテープ。かわいい。プレゼント分も買ってさっそくひとに贈ったら喜んでもらえた。

 

Tシャツれん/雑紙)

μ's9人のデフォルメされたイラストをプリントしたTシャツ。Tシャツは襟首の詰まっていない方が好みなので、これは嬉しい。ネイビーを買いました。

 

 

 

全体の感想としては、おぎもけのふたりの新作が、もうとにかく素晴らしかった。『くもりのちねこ時々、あめ。』は待っていて本当に良かったし、期待以上という点では『アベコベランデヴー』が低くない期待値を遥かに上回っていた。ともに大好きな一冊でした。

また、ちょっとひさしぶりのうえさんの新作と、桶さんの新作も嬉しい。サンクス仮面さん、しんごーさんは既に安心して読める域に達していて、迷うことなく手に取れるので、ありがたいです。

相模さん、Chigayaさん、つなさん、ふくたろうさんと、はじめて読んだ方々の作品も良かった。とりあえずは新刊を楽しみに、どうにかして既刊を探すか……。

次回以降に期待が高まるのは、かるはさんの『take me out.』の続き。そして、個人的には、れんさんの新刊も楽しみにしています(「輪郭をなぞる」も良かったですが、『海沿い』がめちゃくちゃ好きなのです)。

 

 

 

最後に、既刊で手に入れた作品もリストにまとめておきます。なお、既に持っているもので薦める用途に購入したものもあります。

 

【「僕らのラブライブ!16&僕らのラブライブ!サンシャイン!!SP04」既刊購入リスト】

青椿トトまた呼んでくれるかい?』(南極ひまわり/2016年4月)
〇青椿トト『キミが来てくれるなら』(南極ひまわり/2016年9月)
〇青椿トト『がんばり屋なキミへ』(南極ひまわり/2016年11月)
〇青椿トト『キミが笑うまで』(南極ひまわり/2017年4月)
〇うえ『りんちゃん りんちゃん/かよちん かよちん』(paper&pencil/2017年1月)
〇倉蜂るか『#よしまる園児本 -雨-』(はちみつかけごはん/2017年2月)
〇サンクス仮面『ほのにこPrecious Weekend.』(八王子GALAXY VENUS/2017年3月)
〇しんごー『うみりんアパート』(よんごーあんぐる/2016年8月)
〇だたろう『キューティーパンサーのサイキッククッキング』(だだだ珈琲/2017年3月)
〇ふくたろう『おしえてようちゃん』(スーパー銭湯/2017年4月)
〇やち『Dear…』(あげだし豆腐/2017年3月)
〇青椿トト・西門BIRTHDAY YOU♡RIKO』(南極DAYS/2017年4月)
のぞえり凧(うえ・ぷりん(牛乳)/paper&pencil/2017年1月)

 

*1:以下、リンクはtwitter、またはpixivと委託書店(主にメロンブックス)のURLになります。

*2:表紙に「kumorinochineko vol.2」とあるように本作は『くもりのちねこ』の続編ではあるが、同じ凛と真姫を描いた『花に嵐に時々、にゃんこ』とあわせて三部作となっている。

*3:もちろん、一作品として独立して読むこともできるので、『くもりのちねこ』を読んでいない方もぜひ。

*4:この表裏の対比からなる装画は、どう見ても傑作の顔をしている。

*5:前半に出てくるネモフィラやわすれな草は5月の花、終盤の会話はμ'sにはいる前のものとは思えないので。

*6:見付けたといっても、桶さんとの合同スペースだったからだけど。

*7:なんというか、固有名詞にもフェチシズムってありますよね。その点、「コインランドリー」と「モン・サン・ミシェル」はかなりフェティッシュな気がします。

*8:……と、軽々しく書いたものの、この時代のものは雰囲気を出して設定を詰めるのが大変なんだよなあ、と。

Pile「ぱいちゃん祝うぞ誕生祭! BIRTHDAY BASH ! 」

 

ラブライブ!」で西木野真姫を演じているPileの29歳を祝うバースデー・イベント「ぱいちゃん祝うぞ誕生祭!」。イベントは全4会場で開催されました*1

私は、Pileちゃんの誕生日当日である5月2日(火)に舞浜アンフィシアターで開催された「ぱいちゃん祝うぞ誕生祭! BIRTHDAY BASH ! 」と「ぱいちゃん祝うぞ誕生祭! 〜Tailwinds Rockin’ Night Live〜」に参加しました。

 

Pileちゃんのイベントに参加するのは、今回がはじめて。

実のところ、Pileちゃんの活動は2ndアルバム『PILE』と以降のシングルを聴いているくらいで、「チャンネルPile」や「チャンネルとじぱいふぃん」などメインパーソナリティを務めている番組も視聴していません。

楽曲の格好よさと張りのある歌声には、きっとライブでは映えるだろうなと期待していましたが、すこし天然っぽいところのあるPileちゃんが、彼女がメインでトークやMCをするとなるとどんな感じになるのだろうとは思っていました。

 

 

 

「ぱいちゃん祝うぞ生誕祭!」昼の部「ぱいちゃん祝うぞ誕生祭! BIRTHDAY BASH ! 」は、トークのほか、アコースティック・ライブやプレゼント抽選が盛り込まれたバラエティ・イベント。

ゲストMCは戸島花さん。「チャンネルとじぱいふぃん」でもPileちゃんと共演していますが、トークの捌き方が手慣れている。

改めてPileちゃんのトークを聞いて、話が苦手というよりは話の繋げ方にクセがあるような。だから、話を聞いているのは楽しいのですが、そのクセを知らない方とのトークとなると変な感じになっちゃうのかもしれません。そこのところ戸島さんは息の合わせ方が自然で、実に見事でした。

 

トークでは、Pileちゃんの服の多さが話題に。整理しようと思ってとりあえず70Lのビニール袋に詰めたら二袋になったらしく……。「服を捨てるのがもったいなくて、似合うひとにあげる」と言っていて、ちょっとわかる……。服ではありませんが、自分も本を整理する時は売ったり捨てたりすることができなくて、「この本、あのひとが好きそうだな」と思ってあげることが多いので。

ほかに、スキンケアについても。こうやって思い返すと、女性ならではの話題が多いですね。ひとつの化粧水をつかっていると肌がそれに慣れてしまうから、いくつかの化粧水をつかった方がいいとか。ちなみに、日焼け止めは塗らないそう。

 

 

トークの次は、アコースティック・ライブ。演奏は、ライブでもギターを担当している中嶋康孝さんです。

 

 

「ぱいちゃん祝うぞ誕生祭! BIRTHDAY BASH ! 」アコースティック・ライブ(セットリスト)

1.夜空ノムコウSMAPの楽曲のカバー)
2.僕が一番欲しかったもの(槇原敬之の楽曲のカバー)
3.Melody
4.伝説のFLARE
5.Not Alone
6.P.S.ありがとう…

 

 

アコースティック・ライブということで、一曲演奏する毎に曲の話や思い出も話してくれるのは良いですね。ライブ映えする曲をこういう風にしっとり聴けたのも、個人的に嬉しかったです。

中嶋さんはPileちゃんの楽曲のなかでも“Not Alone”が特に好きとのことで、いつか演奏したかったそう。確かに良い曲です。

*2

 

 

アコースティック・ライブの後はプレゼント抽選。ここで、ライブの間は退がっていた戸島花さんが進行役として再登場。既に安定感があります。

2ショットチェキやPileちゃんと戸島さんのサインがはいったTシャツは素直に羨ましかったですが、最後にPileちゃんの練習ジャージがプレゼントとして登場した時の会場がざわざわしていて面白かったです*3

 

なんというか、Pileちゃんとファンの距離を近く感じる、微笑ましいイベントでした。かわいらしさもですが、性格やひととなりも窺えて、改めてPileちゃんのことが好きになりました。

 

*1:開催日程は以下の通り。

4月16日……BEAT STATION(福岡)

4月28日……松下IMPホール大阪府

4月29日……DIAMOND HALL(愛知県)

5月1日……舞浜アンフィシアター(千葉県)

5月2日……舞浜アンフィシアター(千葉県)

*2:余談ですが、槇原敬之“僕が一番欲しかったもの”に関して。ふたりが「海外のアーティストがカバーしたバージョンではじめて知った」と言っていましたが、その海外のアーティストとは、イギリスの男性4人組からなるグループ・Blue。正しくは、Blueに楽曲提供した“GIFT”を槇原敬之がセルフカバーしたものが“僕が一番欲しかったもの”になります。

*3:ちなみに、私は何も当たっていません。

[二次創作・感想] 奈友『しあわせの鐘が鳴る』(アイスガーデン)

 

奈友には、登場人物ふたりの関係に焦点をあてた作品が多い。

初期は東條希絢瀬絵里のふたりを描いた作品が目立ったが、これから紹介する作品以降では、一作毎に主役を変えていて、意外な組み合わせまである。これからが楽しみな作家のひとりだ。

 

 

 

奈友『しあわせの鐘が鳴る』(アイスガーデン/2016年9月)は、大人になった高坂穂乃果南ことりを描く、「ラブライブ!」の「その後」の物語だ。*1

奈友『しあわせの鐘が鳴る』(アイスガーデン)

 

 

 

本作には、高坂穂乃果に対する南ことりの、そしてことりに対する作者の慈愛に満ちている。何をおいても、それが読後の幸福感をもたらしてくれる。

 

冒頭、子どもの頃の穂乃果とことりが、名前も知らない花嫁の祝福される光景を見ながら「しあわせ」について言葉を交わす。

 

穂乃果「ねぇことりちゃん しあわせになるってどういうことなのかなあ」

(略)

穂乃果「あの白いドレスをきて やっとしあわせになるのかな」

(略)

ことり「わたしは穂乃果ちゃんとおはなししてるときがいちばんたのしいしうれしいと思うから これがしあわせかな」*2

 

ふたりは「わたしたち ずっとずっとなかよしのだいしんゆうでいようね」と約束する。

時間は流れて、大人になった南ことりは、ドレスを縫い繕っている。それは、これから結婚する穂乃果に贈るウェディングドレスだ。

 

 

 

奈友の作品には、「ラブライブ!」の「その後」を描いたものが多い。『しあわせの鐘が鳴る』のほかにも、東條希絢瀬絵里が同居する『コーヒーには角砂糖ひとつ』(2016年3月)*3や、大学生になった絵里と矢澤にこが深夜の公園で再会する『ギャラクシーフライト ミッドナイト』(2016年11月)などがある。

 

本作や『ギャラクシーフライト ミッドナイト』は共通して、高校生の頃までの自分たちと今の自分たちが変わったことで、それぞれの関係性にも変化が生まれていく話だ。

そこに奈友という作家は、単なる二次創作という以上の意味をこめて、一連のアフターストーリーを描いている。

 

ラブライブ!」という物語に綴じこめられている、輝きに満ちた時間が終わった後、彼女たちに何が待っているのか。敢えて冷めた言い方をするならば、それは物語という宝石箱に仕舞われることのない、ただの日常だ。*4

音ノ木坂学院を卒業した彼女たちも私たち同様、大学に通って会社員になっているかもしれないし、高校を卒業してすぐに就職しているかもしれないし、フリーターかもしれない。もちろん、変わらずアイドルを続けている可能性だってある。

けれども、スクールアイドルでなくなった彼女たちの日々が、「ラブライブ!」という物語のなかで語られることは、おそらくこれからもないだろう。そして、その後日譚が「ラブライブ!」のような物語になるとも限らない。しかし、決してドラマチックではない彼女たちの日常にもきっと、輝かしい瞬間はある。

ラブライブ!」は、μ's9人の輝きに満ちた時間を物語の枠に閉じ込めることで、いつまでも色褪せないものにした。そこから時を進めることでしか描き得ない、かたちを変えながらも繋がっていく彼女たち自身の物語を、奈友という作家は描こうとしているように感じた。

 

 

ウェディングドレスに身を包む穂乃果。その姿は、「ラブライブ!」のなかで描かれていた彼女とは違う輝きを纏っている。

そして、穂乃果を見守ることりのこの思いも、「親愛」や「恋愛」といった感情から離れて、どこか貴いものに昇華されているように感じた。

彼女にも、また違った「しあわせ」が訪れるに違いない。これからの彼女の日々に、しあわせの鐘が鳴り続けることを願っている。

*1:「僕らのラブライブ!13」初出。ただし、発行年月日に関しては、奥付に記載なし。

*2:本書P.2。

*3:本書も、発行年月日に関して奥付に記載はない。

*4:本当は、こんな風に言いたくはないが……。

[二次創作・感想] しんごー『うみりんアパート』(よんごーあんぐる)

 

しんごーは、twitterに発表している漫画をまとめた〈八頭身の矢澤にこisデフォルトなラブライブ!漫画〉シリーズのほか、ストーリー仕立ての作品を書き下ろしで発表している。

シリーズのタイトルにもなっているように、しんごーの作品では、なぜか矢澤にこが八頭身で描かれる。ほかのキャラクターはデフォルメされたかわいらしいタッチなのに、一人だけ八頭身だ。バスケットボール選手のような体格、光の失われた瞳、そしてローテンション。かわいらしい要素は無に等しいが、*1「これは矢澤にこなのだ」と理解したうえで見た時の衝撃と、一切の疑問を差し挟むことなくそれが画面に存在する違和感によって、なんだか忘れがたい印象を残す。

 

 

 

しんごー『うみりんアパート』(よんごーあんぐる/2016年8月)*2は、「一軒家アパートで暮らす園田海未星空凛の共同生活」*3を描いた作品。1巻は基本四コマ形式だが、2巻からは1ページの掌編がメインとなっている。八頭身の矢澤にこは登場しない。

しんごー『うみりんアパート』(メロンブックス)

 

 

 

『うみりんアパート』には、独特の「ぬるさ」がある。あるいは「生活感」と言うべきか。形容はなんでもいいが、とにかく非凡である。

 

これまで発表されてきたしんごーの作品は、終わらない好き放題が魅力であった。掌編で発揮されている一点突破のシュールなネタが、書き下ろしでは繋がりあって9人のドタバタとなり繰り広げられる。登場人物(μ's)と舞台(音ノ木坂学院)を固定することが、二次創作においては逆説的に何でもできる強みとなって活きている。*4

一方『うみりんアパート』では、自由度の高い学園内からアパートの一部屋に舞台が移って、登場人物もほとんど海未と凛の二人になるなど、要素を大胆に削ぎ落とされている。*5舞台と登場人物に更に制約を課したため、家事や他愛もない会話といったディテールへと自然に題材が絞られていき、今までの作品にはなかった一定のリアリティが生まれている。

作品のコンセプトを統一することで、ギャグ漫画としては珍しい、連作の読み応えを獲得していることは疑いようがない。

 

「一軒家アパートで暮らす園田海未星空凛の共同生活」は、「『りん、一本です。』の話」*6で先行して描かれている。*7この掌編が基となって、連作のアイディアが練られていったのではないだろうか。

散りばめてある設定の詳細も拾っておこう。まず、南ことりがパリにいるという記述があるので、おそらくμ'sの9人は音ノ木坂学院を卒業している。*8また、凛がレポート課題をやろうとしている箇所がある(そして、二人が仕事をしている描写がない)ので、二人は大学生なのかもしれない。*9

細部まで読むと、「ラブライブ!」の「その後」として描かれていることが察せられる。しかし、その設定に余剰な物語が付与しないように(「どのような過程を経て二人が共同生活をするに到ったか」に読者の興味が移らないように)、作品の設定さえ最小限に留めている点には、ある種の職人気質さえ感じさせて好もしい。

 

 

しんごーの作品は、そのほかの特徴にパロディが挙げられる。

『ロックリンホシゾラ みんなで叶えるロックバスター』(2014年11月)のようにパロディ自体が作品のコンセプトにあるものから、*10HUNTER×HUNTER』を意識した演出が目立つ『喪失のF』(2015年5月)、『ONE PIECE』の(あまりに懐かしい)キャラクターが登場する『すっぽりんミラクル』(2016年5月刊)、『キン肉マン』『DRAGON QUEST ダイの大冒険』『ドラゴンボール』『幽☆遊☆白書』など〈週刊少年ジャンプ〉作品のパロディは特に多い。

ほかにも『ぼのぼの』『スーパーマリオメーカー』『星のカービィ2』……と、漫画やゲームのパロディは〈八頭身の矢澤にこisデフォルトなラブライブ!漫画〉シリーズでも散見されて、そこが楽しくもある。

 

本作において、特徴でもあったパロディ要素も控えめにしてある。*11そのかわりではないが、海未と凛の台詞に『水曜日のダウンタウン』『アメトーーク!』などテレビ番組のタイトルが出てくる。パロディとはまた違ったかたちで実在の作品を作中に落とし込むことで、先に述べたような「生活感」の一部を生み出している。*12

 

 

 

海未と凛という、めずらしい組み合わせながら抜群の安定感で、だらだらと読み続けたいシリーズである。続刊が楽しみだ。*13

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*しんごー(よんごーあんぐる)書誌

国立音ノ木坂学院に通う九人の女神の物語(2013年12月/コミックマーケット85) ※とらのあな
のぞえり一本勝負!(2014年5月/僕らのラブライブ!4) ※とらのあな
オトノキ村ののんたぬき(2014年6月/あなたとラブライブ!4) ※とらのあな
□アヒルのまき《成長記録》(2014年6月/あなたとラブライブ!4)
ロックリンホシゾラ みんなで叶える ロックバスター(2014年11月/僕らのラブライブ!6) ※とらのあな
ギャラクシーミュージアム(2014年12月/コミックマーケット87) ※とらのあな
りんまき一本勝負!(2014年12月/コミックマーケット87) ※とらのあな
腰掛戦姫ンミチェアー(2015年3月/僕らのラブライブ!7) ※tumblr.
□喪失のF(2015年5月/僕らのラブライブ!8)

UR賃貸のぞえり電子書籍/2015年6月/あなたとラブライブ!5) ※tumblr.
八頭身の矢澤にこisデフォルトなラブライブ!漫画(2015年8月/コミックマーケット88) ※とらのあな
黒騎士マイダーリン(2015年8月/コミックマーケット88) ※BOOTH
にこプリウス女子道(2015年9月/僕らのラブライブ!9) ※tumblr.
八頭身の矢澤にこisデフォルトなラブライブ!漫画2(2015年12月/コミックマーケット89) ※メロンブックス
岩号光昭のラブライブ!ネコ歩き(2016年3月/僕らのラブライブ!11) ※BOOTH
すっぽりんミラクル(2016年5月/僕らのラブライブ!12) ※メロンブックス
ワンナイト人狼やるニコよ!(1)素人レッスン編(2016年7月/矢澤にこ生誕祭 にこ誕) ※メロンブックス
うみりんアパート(2016年8月/コミックマーケット90) ※メロンブックス
八頭身の矢澤にこisデフォルトなラブライブ!漫画3(2016年8月/コミックマーケット90) ※メロンブックス

りんちゃんが不労所得を得る過程で興奮と落ち着きを繰り返す4ページの話(小冊子/2016年9月/僕らのラブライブ!13) ※tumblr.

麻雀を、始めましょう/カード麻雀、やらない?(小冊子/2017年1月/コミックマーケット91) ※tumblr.

うみりんアパート番外編 進捗0から明日の同人誌即売会に間に合わせたい園田海未(小冊子/2017年1月/僕らのラブライブ!新年会2017) ※tumblr.
うみりんアパート2(2017年3月/僕らのラブライブ!15) ※メロンブックス

蔵出し!凛ちゃん漫画(小冊子/2017年5月/僕らのラブライブ!16) ※tumblr.

 

*1:実際かわいくはない。

*2:コミックマーケット90」初出。2017年4月現在、2巻まで刊行。

*3:本書P.2より。

*4:二次創作のギャグ漫画全般に当て嵌まる特徴でもある。

*5:ラブライブ!」のキャラクターは、二巻までに海未と凛のほか、希と絵里、統堂英玲奈が幾度か登場したのみ。

*6:『八頭身の矢澤にこisデフォルトなラブライブ!漫画2』(2015年12月)所収。

*7:「『ひえひえニャ…』のまえ話」と、あわせて2ページで構成されるこの作品は、本シリーズの書籍には再録されていない。

*8:本書P.31。

*9:2巻P.19。

*10:タイトルからわかるように、ゲーム『ロックマン』である。

*11:愚地独歩(『グラップラー刃牙』)と『三国志』くらいだろうか。

*12:実在の作品に言及する手法は先述の「『りん、一本です。』の話」の時点で、明確に用いられている。

*13:それにしても、1巻の最後に影を現した「あの二人」が再び登場する機会はあるのだろうか。

[二次創作・感想] しろくま『季節めぐりて。』(からっぽ冷蔵庫)

 

しろくまは、twitterを中心に「ラブライブ!」関連のイラストを(スケッチのようなものも含めて)多く載せている。イラストではデフォルメされたかわいらしいものが目立つなか、漫画においてその描線は自制さえ感じさせる繊細さも持ち合わせいる。

μ'sのメンバーのなかでも東條希に思い入れがあるようで、彼女を中心に置いた作品がよく見受けられる。*1なかでも、彼女と星空凛の関係に焦点があてられた作品が多いことは特徴と言えるだろう。第一作『君のこと。』(2015年6月)をはじめ、先述の二人に園田海未を加えたユニットlily whiteを描く『立てば芍薬座れば牡丹三人揃えばLily White』(2016年9月)なども、そのうちに含めることができる。

希と凛のやりとりは、アニメ本編にあまりない一方、ボイスドラマで触れることができる。謎めいた(そして、秘めた願いをもつ)キャラクターとしてアニメに登場する希も、ボイスドラマでは打って変わって、凛と無邪気にはしゃいでいることが多い。にぎやかで楽しい組み合わせだ。*2しろくまの作品における希と凛は、ボイスドラマのにぎやかな感じを踏まえたうえで、更に別の表情を描こうとしている。

 

 

 

『季節めぐりて。』(からっぽ冷蔵庫/2016年5月)は、東條希星空凛の二人を描いた作品のひとつ。*3自転車を漕ぐ凛と、その後ろに乗る希、二人の「いつもの帰り道」を淡々と描いている。*4

しろくま『季節めぐりて。』(メロンブックス)

 

 

 

この「淡々」さは曲者だ。二人の帰り道をただ切り取っていくなか、気付けば物語のなかでは一年もの時間が流れている。

いつもの日常にいつか終わりが訪れるように(そして、それはいつも思いがけなく訪れる)、終わらない最中の楽しさと幕が下りる時のあの寂しさが、この物語のなかに綴じ込めてある。

 

凛が自転車で通学をしているという設定は寡聞にして知らないので、おそらく作者の創作だろう。『季節めぐりて。』において、このオリジナルの設定から、「もしも希と凛が、μ'sの結成前に出会っていたら」というifの物語が生まれている。*5

よそよそしさがある最初の出会いからμ's結成を経て、すこしずつ二人の距離は変化していく。*6そのなかにすっと挿しこまれる、見慣れた練習後の場面。そこで、いつの間にか卒業式の前日まで時間が流れていることに、はたと気付かされるのだ。

 

いつまでも終わらない、楽しい時間。そして、「みんなで叶えた」からこその、ひとつの物語の終わり。*7それを作者は、「ラブライブ!」本編とはまた別のアプローチから描こうとしている。*8その試みが見事にかたちになっているのは、ひとえに希と凛、二人への愛情だろう。

 

エンドマークが打たれた感触もないまま、物語は突然に幕を下ろす。

しかし、だからこそ、二人の関係は「ラブライブ!」の物語の枠を超えて、いつまでも続いていくのだ。そう願っている。

 

 

 

余談にはなりますが、しろくまさんのブログ記事「僕ラブの話と宣伝とお堅い話を書きました」(2017年4月5日)によれば、「もう本を出すことはない」とのこと。

今後もイラストや漫画は(pixivなどで)発表するそうですが、本のかたちで手にすることができないのは本当に残念。

本作と『犬猫にも馴染めば思う。』で確実に自身の作風をかたちにしつつある手触りを感じたので、これからどのような作品を読むことができるか楽しみです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しろくま(からっぽ冷蔵庫)書誌

君のこと。(2015年6月/あなたとラブライブ!5) ※メロンブックス
日常×μ's(2015年9月/僕らのラブライブ!9) ※メロンブックス
青春ロードムービー(2015年12月/コミックマーケット89) ※メロンブックス
思い出以上をもっとずっと!(2016年3月/僕らのラブライブ!11) ※メロンブックス
季節めぐりて。(2016年5月/僕らのラブライブ!12)
□まほう(2016年6月/‪Girls Love Festival17 & アイ☆FES8/SweetSweetSweet2 & 希誕‬) ※pixivにて公開中(https://pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=60683730
立てば芍薬座れば牡丹三人揃えばLily White(2016年9月/僕らのラブライブ!13) ※メロンブックス
犬猫にも馴染めば思う。(2017年3月/僕らのラブライブ!15) ※メロンブックス

(2017年6月現在)

 

*1:東條希を演じている楠田亜衣奈さんも好きなようで、イベントのレポートをイラストや漫画にしてtwitterに載せている。

*2:「プールでトレーニング!?」(『微熱からMystery』所収。)の暴走っぷりなど、愛らしくて仕方がない。

*3:「僕らのラブライブ!12」初出。

*4:『君のこと。』『季節めぐりて。』『犬猫にも馴染めば思う。』と、希と凛の関係に焦点をあてた作品のみタイトルに句点が付いているのは、何か意図があるのかもしれない。

*5:そして、そのifの物語さえも、希と凛の関係を表現するための脚本なのだ。作者は語ることの快楽に溺れることなく、慈しむようにただ二人の関係を描いている。

*6:はじめて自転車に乗せて帰った別れ際、希に「またよろしくねー!」と言われた凛が浮かべる怪訝そうな表情など、珍しい顔も見ることができて新鮮だ。

*7:僕たちはひとつの光」の歌詞から引くなら、それは「旅立ちの日」と呼べるだろう。

*8:同様の試みは、μ'sの9人それぞれの日常を描いた『思い出以上をもっとずっと!』(2016年3月)からも窺える。

[二次創作・感想] たま『土曜日のおはなし』(米騒動)

 

米騒動は、たまとはしもとの二人からなるサークル。

たまが細密な描写と考え抜かれた画面構成を駆使した漫画を発表する一方、はしもとは暖かな描線と色味でデフォルメされたイラストを描いて缶バッジやキーホルダーなどグッズを制作している。まったく正反対の作風の二人だ。

 

 

 

『土曜日のおはなし』(米騒動/2016年5月)は、たまの作品。*1綾瀬絵里と東條希、それぞれの土曜日を過ごすふたりが出会うまでを描いている

たま『土曜日のおはなし』(メロンブックス)

 

 

 

細部まで丁寧につくりこまれた、愛らしい佳品である。

まずは造本。クラフトペーパーのような手触りの紙に二色刷りという、あまり同人誌では見かけない仕様だ。表紙にはアール・ヌーヴォーを意識した構図で、百合の花々に縁取られた希と絵里のイラスト。元は華やかな絵を、紙と色の選び方でシックに仕上げている。*2

こういった造本に対するこだわりは、たまの作品のなかでも本書だけの特徴ではない。西木野真姫矢澤にこの「その後」を描いた『桃色ロマンス』(2015年6月)は、二色刷りではないが、彩色そのものが物語の演出に奉仕している。*3

 

 

次に頁をめくると、その背景の細密さに圧倒される。

例えば、絵里が神保町の古書店を訪れる場面、絵里の頭上を超えて聳える本棚など、本好きとしては堪らない。

軽快な場面転換と本棚のインパクトに思わず見逃してしまうが、その前のコマでは神保町駅の地上出口、すずらん通りに立ち並ぶ特徴的な街灯が描かれていて、彼女の行く先をさりげなく指し示している。ひとつひとつのコマの描き込みが、物語のなかを案内する手引きとして、きちんと役割を果たしているのだ。*4

 

神田明神で大掃除の手伝いをする希と、神保町の古書店や喫茶店を巡る絵里。細密な描写によってそれぞれのいる場所が、現実にあるものとして確かに浮かびあがってくる。

そこに溶け込む希や絵里の姿は、ひとつひとつのコマが彼女たちの日常の一瞬を切り取ったように鮮やかだ。その(良い意味で)漫画らしくない画の静かさが、休日に流れるゆったりとした空気に似た心地好さを感じさせてくれる。*5

 

 

本作は、ほかにもすこし変わった演出が凝らされている。最後の三頁まで、希と絵里はひとことも言葉を発しないのだ。

それぞれが誰かと話している場面(休憩中にほかの巫女さんと話す希、料理を注文する絵里)では、彼女たちの台詞だけでなく、まわりの登場人物の台詞も省略されている。

また、ふたりの会話は、その殆どがSNSのチャットによっておこなわれている。メッセージのポップアップが場面の背景に載っていたり、SNSにアップされた写真とそれに対するメッセージがコマ単位の処理によって為されている二人のやりとり。フキダシの変化による感情表現を排した、このような演出方法は、落ち着いた画面構成にも一役を買っている。

同時にSNSのメッセージは、希と絵里ふたりの繋がりとともに、会えないでいる距離感の象徴でもある。特に絵里の方に顕著だが、SNS(建前)と現実(本音)に落差を出して、素直になれない彼女のいじらしさを際立たせている。

 

 

背景の話に戻るが、本作では「鳩」が随所に描かれている。ベランダの手摺に停まっていたり、今にも飛び立とうと羽をひろげたり、終盤の二頁を除く各頁に一羽はかならず鳩がいる。鳩たちは静かな画面に動きを与えるととともに、希と絵里それぞれの場面に連続して登場することで、距離を隔てたふたりを(読者のなかで)繋ぎ留める役割も果たしている。*6

更に、最初の一羽から徐々に増えていく鳩の姿は、希と絵里のふたりの心情を重ねあわされているかのように、互いに相手への思いが強くなっていくさまを象徴しているようにも映る。

終盤、神田明神の手伝いを終えた希が明神男坂を駆け下りる場面など、幾羽もの鳩の飛び立つさまが彼女の高揚感を後姿に表していて、クライマックスに相応しい演出だ。

別々の場所にいる希と絵里のふたりを繋げる役割を鳩(アナログ)が務め、繋がっているけれども同時に隔たりを表すツールとして出てくるSNS(デジタル)。道具立てに於いても対比を利かせるなど、考え抜かれている。

物語そのものはささやかではあるが、描写や演出を細部に亘って奉仕させることで、しっかりとひとつのドラマに昇華されている。いや、本当に素晴らしい。

 

 

また、本作では、希と絵里を除くμ'sのメンバーが、セリフのうえでも一切登場しない。*7

そのため、『土曜日のふたり』が、「ラブライブ!」に於いてどの時期にあたる物語なのか(μ's結成より前なのか、後なのか)は判断できない。*8
μ'sのメンバーが一切登場しないかわりに、アイドル活動のない「休日」、「ラブライブ!」の物語からすこし離れた希と絵里の姿が鮮やかに浮かびあがっている。

あらゆるのぞえり好きに薦めたい作品だ。

 

 

 

余談ですが、絵里の行く先がすずらん通りであることから、彼女の訪れた古書店ボヘミアンズ・ギルドが、その後に昼食をとっている喫茶店はさぼうるがモデル。*9食後は文房堂に寄って画材や文房具を見ていたかも……なんて想像するのも、楽しみのひとつ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*たま、はしもと(米騒動)書誌

まきちゃんのぬいぐるみ(2015年3月/僕らのラブライブ!) ※twitter
桃色ロマンス(2015年6月/あなたとラブライブ!5) ※メロンブックス
μ'sの試験前夜(2015年9月/僕らのラブライブ!9) ※メロンブックス
ベリーベリーベリー(2016年3月/僕らのラブライブ!11) ※メロンブックス
土曜日のおはなし(2016年5月/僕らのラブライブ!12) ※メロンブックス

こめいっき!(2016年5月/僕らのラブライブ!12)※twitter
1918(2016年9月/僕らのラブライブ!13) ※twitter

(2017年6月現在) 

 

*1:「僕らのラブライブ!12」初出。

*2:クラフトペーパーは色が乗りにくいようで、本書でも、背景のピンクのストライプは実物ではかなり控えめな出方になっている。とはいえ、黒色の濃度を調整して鳩や百合の葉を彩色しているため、地味には映らない。

*3:仕掛けに言及することになるが、『桃色ロマンス』では最後、真姫とにこが再会する場面で頁がカラーになる。この趣向のために、白黒の頁も含めて全頁にフルカラー用の紙材が使用されている。

*4:神保町という土地を選んでいる点も見逃せない。「ラブライブ!」プロジェクトの初期から、神保町という場所は名前こそ挙がるものの、物語に登場することは殆どなかった(「ラブライブ!」公式サイトのストーリーにも、音ノ木坂学院は、「秋葉原と神田と神保町という3つの街のはざまにある」と書かれている)。
「あったかもしれない物語」として、本編では描かれなかった場所を選ぶあたり、読む側のくすぐり方をよく知っている。

*5:これほど描き込みが多いにもかかわらず、画に静かさがあるのは、場面の切り取り方と配置にこだわっている証左だろう。

*6:このように、頁単位で読者を意識した演出は、『μ'sの試験前夜』(2015年9月)にも見られる。タイトル通りの作品だが、真姫の家に訪ねてくるメンバーが、それぞれ右頁の最初に二段抜きで登場する構成をとっている。

*7:本作が「僕らのラブライブ!12」内のイベント「のぞえりプチオンリー ふたりきりの花園」で頒布されたことを考えると、元々μ'sの物語としては書かれていないのだろう。

*8:すくなくとも、絵里が(課題ではなく)宿題をしていて、数学の問題集を開いて二次関数の問題を解いているので、音ノ木坂学院に通っている時期には間違いないだろう。

*9:実際、喫茶店はどこがモデルかわからなかったところ、twitterでたまさん本人に教えていただきました。さぼうる……最近は行ってないな。

はじめに

 

守衛の犬です。

ラブライブ!」が好きで、それについての文章をまとめるためにブログを始めました。

 

 

基本的には、三種類の文章によって構成される予定です。

 

・「ラブライブ!」について

ラブライブ!」に出会ってからこれまで、さまざまなことがありました。そのとき感じたことや考えたことを忘れないよう、文章にまとめておきたいと思います。作品のこと、ライブやイベントのこと、ラジオやそのほかのこと――過去も現在のことも、出来るかぎり文章に残していきたいです。

 

・μ'sの9人について

μ'sの9人の「その後」は、今も応援しています。自分のペースながらではありますが、それぞれの活躍を長く見守っていくつもりです。彼女たちについて思ったことも、文章に残していきたいです。

 

・二次創作について

今まで私は「二次創作」というものに殆ど興味を持っていませんでした。しかし、「ラブライブ!」に出会って、作品世界のなかで(あるいは外で)更に別の誰かによって紡がれていく物語の魅力に触れました。

創作と批評は絶えず繋がっているものですが、二次創作に関しては、そもそもオリジナルへのある種の批評性を帯びて生まれています。しかし、それが更に創作と結び付いているため、オリジナルと二次創作の間には形式としての批評は存在しません。二次創作の作品に関する批評を試みることで、更にはオリジナルに対する批評を逆照射することが目的です。

要は、二次創作の感想も書いていきたいです。

 

以上になります。

もちろん「ラブライブ!サンシャイン」についても同じように、ぽつぽつと文章にまとめていきたいと思います。

 

 

無理のない程度に、ゆっくりでも長く続けていきたいです。

 

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