[二次創作・感想] 奈友『しあわせの鐘が鳴る』(アイスガーデン)
奈友には、登場人物ふたりの関係に焦点をあてた作品が多い。
初期は東條希と絢瀬絵里のふたりを描いた作品が目立ったが、これから紹介する作品以降では、一作毎に主役を変えていて、意外な組み合わせまである。これからが楽しみな作家のひとりだ。
奈友『しあわせの鐘が鳴る』(アイスガーデン/2016年9月)は、大人になった高坂穂乃果と南ことりを描く、「ラブライブ!」の「その後」の物語だ。*1
本作には、高坂穂乃果に対する南ことりの、そしてことりに対する作者の慈愛に満ちている。何をおいても、それが読後の幸福感をもたらしてくれる。
冒頭、子どもの頃の穂乃果とことりが、名前も知らない花嫁の祝福される光景を見ながら「しあわせ」について言葉を交わす。
穂乃果「ねぇことりちゃん しあわせになるってどういうことなのかなあ」
(略)
穂乃果「あの白いドレスをきて やっとしあわせになるのかな」
(略)
ことり「わたしは穂乃果ちゃんとおはなししてるときがいちばんたのしいしうれしいと思うから これがしあわせかな」*2
ふたりは「わたしたち ずっとずっとなかよしのだいしんゆうでいようね」と約束する。
時間は流れて、大人になった南ことりは、ドレスを縫い繕っている。それは、これから結婚する穂乃果に贈るウェディングドレスだ。
奈友の作品には、「ラブライブ!」の「その後」を描いたものが多い。『しあわせの鐘が鳴る』のほかにも、東條希と絢瀬絵里が同居する『コーヒーには角砂糖ひとつ』(2016年3月)*3や、大学生になった絵里と矢澤にこが深夜の公園で再会する『ギャラクシーフライト ミッドナイト』(2016年11月)などがある。
本作や『ギャラクシーフライト ミッドナイト』は共通して、高校生の頃までの自分たちと今の自分たちが変わったことで、それぞれの関係性にも変化が生まれていく話だ。
そこに奈友という作家は、単なる二次創作という以上の意味をこめて、一連のアフターストーリーを描いている。
「ラブライブ!」という物語に綴じこめられている、輝きに満ちた時間が終わった後、彼女たちに何が待っているのか。敢えて冷めた言い方をするならば、それは物語という宝石箱に仕舞われることのない、ただの日常だ。*4
音ノ木坂学院を卒業した彼女たちも私たち同様、大学に通って会社員になっているかもしれないし、高校を卒業してすぐに就職しているかもしれないし、フリーターかもしれない。もちろん、変わらずアイドルを続けている可能性だってある。
けれども、スクールアイドルでなくなった彼女たちの日々が、「ラブライブ!」という物語のなかで語られることは、おそらくこれからもないだろう。そして、その後日譚が「ラブライブ!」のような物語になるとも限らない。しかし、決してドラマチックではない彼女たちの日常にもきっと、輝かしい瞬間はある。
「ラブライブ!」は、μ's9人の輝きに満ちた時間を物語の枠に閉じ込めることで、いつまでも色褪せないものにした。そこから時を進めることでしか描き得ない、かたちを変えながらも繋がっていく彼女たち自身の物語を、奈友という作家は描こうとしているように感じた。
ウェディングドレスに身を包む穂乃果。その姿は、「ラブライブ!」のなかで描かれていた彼女とは違う輝きを纏っている。
そして、穂乃果を見守ることりのこの思いも、「親愛」や「恋愛」といった感情から離れて、どこか貴いものに昇華されているように感じた。
彼女にも、また違った「しあわせ」が訪れるに違いない。これからの彼女の日々に、しあわせの鐘が鳴り続けることを願っている。