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第九展望塔

みんなで叶える物語

[二次創作・感想] しんごー『うみりんアパート』(よんごーあんぐる)

 

しんごーは、twitterに発表している漫画をまとめた〈八頭身の矢澤にこisデフォルトなラブライブ!漫画〉シリーズのほか、ストーリー仕立ての作品を書き下ろしで発表している。

シリーズのタイトルにもなっているように、しんごーの作品では、なぜか矢澤にこが八頭身で描かれる。ほかのキャラクターはデフォルメされたかわいらしいタッチなのに、一人だけ八頭身だ。バスケットボール選手のような体格、光の失われた瞳、そしてローテンション。かわいらしい要素は無に等しいが、*1「これは矢澤にこなのだ」と理解したうえで見た時の衝撃と、一切の疑問を差し挟むことなくそれが画面に存在する違和感によって、なんだか忘れがたい印象を残す。

 

 

 

しんごー『うみりんアパート』(よんごーあんぐる/2016年8月)*2は、「一軒家アパートで暮らす園田海未星空凛の共同生活」*3を描いた作品。1巻は基本四コマ形式だが、2巻からは1ページの掌編がメインとなっている。八頭身の矢澤にこは登場しない。

しんごー『うみりんアパート』(メロンブックス)

 

 

 

『うみりんアパート』には、独特の「ぬるさ」がある。あるいは「生活感」と言うべきか。形容はなんでもいいが、とにかく非凡である。

 

これまで発表されてきたしんごーの作品は、終わらない好き放題が魅力であった。掌編で発揮されている一点突破のシュールなネタが、書き下ろしでは繋がりあって9人のドタバタとなり繰り広げられる。登場人物(μ's)と舞台(音ノ木坂学院)を固定することが、二次創作においては逆説的に何でもできる強みとなって活きている。*4

一方『うみりんアパート』では、自由度の高い学園内からアパートの一部屋に舞台が移って、登場人物もほとんど海未と凛の二人になるなど、要素を大胆に削ぎ落とされている。*5舞台と登場人物に更に制約を課したため、家事や他愛もない会話といったディテールへと自然に題材が絞られていき、今までの作品にはなかった一定のリアリティが生まれている。

作品のコンセプトを統一することで、ギャグ漫画としては珍しい、連作の読み応えを獲得していることは疑いようがない。

 

「一軒家アパートで暮らす園田海未星空凛の共同生活」は、「『りん、一本です。』の話」*6で先行して描かれている。*7この掌編が基となって、連作のアイディアが練られていったのではないだろうか。

散りばめてある設定の詳細も拾っておこう。まず、南ことりがパリにいるという記述があるので、おそらくμ'sの9人は音ノ木坂学院を卒業している。*8また、凛がレポート課題をやろうとしている箇所がある(そして、二人が仕事をしている描写がない)ので、二人は大学生なのかもしれない。*9

細部まで読むと、「ラブライブ!」の「その後」として描かれていることが察せられる。しかし、その設定に余剰な物語が付与しないように(「どのような過程を経て二人が共同生活をするに到ったか」に読者の興味が移らないように)、作品の設定さえ最小限に留めている点には、ある種の職人気質さえ感じさせて好もしい。

 

 

しんごーの作品は、そのほかの特徴にパロディが挙げられる。

『ロックリンホシゾラ みんなで叶えるロックバスター』(2014年11月)のようにパロディ自体が作品のコンセプトにあるものから、*10HUNTER×HUNTER』を意識した演出が目立つ『喪失のF』(2015年5月)、『ONE PIECE』の(あまりに懐かしい)キャラクターが登場する『すっぽりんミラクル』(2016年5月刊)、『キン肉マン』『DRAGON QUEST ダイの大冒険』『ドラゴンボール』『幽☆遊☆白書』など〈週刊少年ジャンプ〉作品のパロディは特に多い。

ほかにも『ぼのぼの』『スーパーマリオメーカー』『星のカービィ2』……と、漫画やゲームのパロディは〈八頭身の矢澤にこisデフォルトなラブライブ!漫画〉シリーズでも散見されて、そこが楽しくもある。

 

本作において、特徴でもあったパロディ要素までも控えめにしてある。*11そのかわりではないが、海未と凛の台詞に『水曜日のダウンタウン』『アメトーーク!』などテレビ番組のタイトルが出てくる。パロディとはまた違ったかたちで実在の作品を作中に落とし込むことで、先に述べたような「生活感」の一部を生み出している。*12

 

 

 

海未と凛という、めずらしい組み合わせながら抜群の安定感で、だらだらと読み続けたいシリーズである。続刊が楽しみだ。*13

*1:実際かわいくはない。

*2:コミックマーケット90」初出。2017年4月現在、2巻まで刊行。

*3:本書P.2より。

*4:二次創作のギャグ漫画全般に当て嵌まる特徴でもある。

*5:ラブライブ!」のキャラクターは、二巻までに海未と凛のほか統堂英玲奈しか登場していない。

*6:『八頭身の矢澤にこisデフォルトなラブライブ!漫画2』(2015年12月)所収。

*7:「『ひえひえニャ…』のまえ話」と、あわせて2ページで構成されるこの作品は、本シリーズの書籍には再録されていない。

*8:本書P.31。

*9:2巻P.19。

*10:タイトルからわかるように、ゲーム『ロックマン』である。

*11:愚地独歩(『グラップラー刃牙』)と『三国志』くらいだろうか。

*12:実在の作品に言及する手法は先述の「『りん、一本です。』の話」の時点で、明確に用いられている。

*13:それにしても、1巻の最後に影のみ現れた「あの二人」が登場する機会はあるのだろうか。