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第九展望塔

みんなで叶える物語

[二次創作・感想] しろくま『季節めぐりて。』(からっぽ冷蔵庫)

 

しろくまは、twitterを中心に「ラブライブ!」関連のイラストを(スケッチのようなものも含めて)多く載せている。イラストではデフォルメされたかわいらしいものが目立つなか、漫画においてその描線は自制さえ感じさせる繊細さも持ち合わせいる。

μ'sのメンバーのなかでも東條希に思い入れがあるようで、彼女を中心に置いた作品がよく見受けられる。*1なかでも、彼女と星空凛の関係に焦点があてられた作品が多いことは特徴と言えるだろう。第一作『君のこと。』(2015年6月)をはじめ、先述の二人に園田海未を加えたユニットlily whiteを描く『立てば芍薬座れば牡丹三人揃えばLily White』(2016年9月)なども、そのうちに含めることができる。

希と凛のやりとりは、アニメ本編にあまりない一方、ボイスドラマで触れることができる。謎めいた(そして、秘めた願いをもつ)キャラクターとしてアニメに登場する希も、ボイスドラマでは打って変わって、凛と無邪気にはしゃいでいることが多い。にぎやかで楽しい組み合わせだ。*2しろくまの作品における希と凛は、ボイスドラマのにぎやかな感じを踏まえたうえで、更に別の表情を描こうとしている。

 

 

 

『季節めぐりて。』(からっぽ冷蔵庫/2016年5月)は、東條希星空凛の二人を描いた作品のひとつ。*3自転車を漕ぐ凛と、その後ろに乗る希、二人の「いつもの帰り道」を淡々と描いている。*4

しろくま『季節めぐりて。』(メロンブックス)

 

 

 

この「淡々」さは曲者だ。二人の帰り道をただ切り取っていくなか、気付けば物語のなかでは一年もの時間が流れている。

いつもの日常にいつか終わりが訪れるように(そして、それはいつも思いがけなく訪れる)、終わらない最中の楽しさと幕が下りる時のあの寂しさが、この物語のなかに綴じ込めてある。

 

凛が自転車で通学をしているという設定は寡聞にして知らないので、おそらく作者の創作だろう。『季節めぐりて。』において、このオリジナルの設定から、「もしも希と凛が、μ'sの結成前に出会っていたら」というifの物語が生まれている。*5

よそよそしさがある最初の出会いからμ's結成を経て、すこしずつ二人の距離は変化していく。*6そのなかにすっと挿しこまれる、見慣れた練習後の場面。そこで、いつの間にか卒業式の前日まで時間が流れていることに、はたと気付かされるのだ。

 

いつまでも終わらない、楽しい時間。そして、「みんなで叶えた」からこその、ひとつの物語の終わり。*7それを作者は、「ラブライブ!」本編とはまた別のアプローチから描こうとしている。*8その試みが見事にかたちになっているのは、ひとえに希と凛、二人への愛情だろう。

 

エンドマークが打たれた感触もないまま、物語は突然に幕を下ろす。

しかし、だからこそ、二人の関係は「ラブライブ!」の物語の枠を超えて、いつまでも続いていくのだ。そう願っている。

 

 

 

余談にはなりますが、しろくまさんのブログ記事「僕ラブの話と宣伝とお堅い話を書きました」(2017年4月5日)によれば、「もう本を出すことはない」とのこと。

今後もイラストや漫画は(pixivなどで)発表するそうですが、本のかたちで手にすることができないのは本当に残念。

本作と『犬猫にも馴染めば思う。』で確実に自身の作風をかたちにしつつある手触りを感じたので、これからどのような作品を読むことができるか楽しみです。

 

*1:東條希を演じている楠田亜衣奈さんも好きなようで、イベントのレポートをイラストや漫画にしてtwitterに載せている。

*2:「プールでトレーニング!?」(『微熱からMystery』所収。)の暴走っぷりなど、愛らしくて仕方がない。

*3:「僕らのラブライブ!12」初出。

*4:『君のこと。』『季節めぐりて。』『犬猫にも馴染めば思う。』と、希と凛の関係に焦点をあてた作品のみタイトルに句点が付いているのは、何か意図があるのかもしれない。

*5:そして、そのifの物語さえも、希と凛の関係を表現するための脚本なのだ。作者は語ることの快楽に溺れることなく、慈しむようにただ二人の関係を描いている。

*6:はじめて自転車に乗せて帰った別れ際、希に「またよろしくねー!」と言われた凛が浮かべる怪訝そうな表情など、珍しい顔も見ることができて新鮮だ。

*7:僕たちはひとつの光」の歌詞から引くなら、それは「旅立ちの日」と呼べるだろう。

*8:同様の試みは、μ'sの9人それぞれの日常を描いた『思い出以上をもっとずっと!』(2016年3月)からも窺える。